各専門家が協力できることの強み
1 相続分野の特徴
相続分野は、各専門家が協力して対処すべき必要性が高いです。
この点は、他の専門分野とは異なる、相続分野の特徴だと思います。
相続分野では、多種多様な専門家が登場します。
相続人の間で意見の対立があり、協議をまとめる必要があるときには、弁護士が登場します。
相続財産に不動産が存在しており、不動産の名義変更が必要なときには、司法書士が登場します。
基礎控除額を越える相続財産が存在するため、相続税の申告と納付をしなければならないときには、税理士が登場します。
やや特殊な例ですが、農地を特定遺贈によって名義変更するときには、行政書士が登場することもあります。
そして、複数の専門家が登場するときには、各専門家が協力して対処しなければならないことが多いです。
各専門家が協力することができなければ、相続問題のすべてを解決することができず、最悪の場合、問題が先送りになってしまうおそれがあります。
ここでは、1つの失敗例を紹介し、各専門家の協力の重要性を説明します。
2 協力が不十分な失敗例
この案件では、ある人が遺言の作成を希望していました。
遺言者には子がおらず、兄弟姉妹が法定相続人となることが予想されました。
遺言者は、所有している土地の1つに、甥夫婦が自宅を建築して使用していたため、この土地を甥夫婦に引き継ぐことを希望していました。
そこで、遺言者は、弁護士に依頼し、遺言書を作成してもらいました。
当時、甥夫婦の父母が存命であり、甥夫婦がいずれも遺言者の法定相続人ではなかったため、甥夫婦に土地を遺贈するとの内容の遺言が作成されることとなりました。
その後、遺言者が亡くなり、甥夫婦は、遺言に基づき、土地の名義変更を司法書士に依頼しました。
ところが、司法書士からは、土地の名義変更をすることはできないとの連絡がありました。
その理由は、以下のとおりです。
甥夫婦が自宅用に使用している土地は、現況は宅地であるものの、地目が畑になっていました。
このため、特定遺贈により名義変更をする場合には、農業委員会の許可を得なければならないこととなります。
農業委員会の許可を得ることができなければ、地目が畑である土地について、特定遺贈による名義変更を行うことはできません。
甥夫婦は、農業関係者ではありませんでしたので、農業委員会の許可を得ることは期待できません。
このため、甥夫婦が取得したはずの土地については、名義変更ができないままとなってしまいました。
3 各専門家が協力する必要性
このような事態を避けるためには、あらかじめ、弁護士と司法書士や行政書士が協議し、どのような遺言であれば名義変更ができるか、検討を行っておくべきでした。
このような検討を行えば、たとえば、生前に地目変更登記を行う等の対処ができたはずです。
以上の例からも、相続分野で各専門家が連携して対処する必要性の大きさが分かると思います。
このため、相続に関する相談をされる場合は、専門家同士の連携に力を入れている事務所にご相談されることをお勧めいたします。
専門家による相続人の調査
1 相続人の調査がなぜ必要か
相続では、相続人の調査が必要不可欠です。
相続人が限られている場合は、誰が相続人であるかは自明のことだから、相続人の調査を改めて行う必要はないのではないかと思われることもあるかもしれません。
しかし、相続では、相続人が誰であるかを、第三者に対して証明する必要があり、そのためには、公的記録での調査が欠かせません。
たとえば、不動産や預貯金の相続手続を行う場合には、すべての相続人が書類作成に関与する必要がありますので、法務局や銀行に対して、相続人が誰であるかを公的記録で証明する必要があります。
些細な調査漏れによって、後で、新たに相続人が存在することが判明した場合には、手続を最初からやり直さなければなりません。
以下では、公的記録によって相続人を調査するときの具体的な方法について説明します。
2 相続人の調査方法
相続人の調査は、公的記録で行う必要があるものの、事前に、親族関係を把握している親族から、親族関係を聞いておくのが望ましいと思います。
このような情報を得ておくと、戸籍等の調査を行った際、調査漏れの有無をチェックする手がかりになるからです。
たとえば、戸籍を一通り取得したはずなのに、親族から聞いていた相続人が戸籍に記載されていない場合には、戸籍の取得漏れがある可能性があります。
相続人の調査で取得すべき公的記録は、戸籍です。
戸籍については、本籍地のある市町村役場で取得することができます。
相続人の調査では、どのような相続関係であっても、共通して、被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて取得する必要があります。
被相続人の出生から死亡までで、本籍地の移動(転籍)があったときは、転籍前の戸籍も転籍後の戸籍も取得しなければなりません。
また、被相続人の出生から死亡までで、法改正等による戸籍の作り直し(改製)がなされたときも、改製前の戸籍も改製後の戸籍も取得しなければなりません。
結婚や離婚、養子縁組や離縁等の身分関係の変動があったときも同様です。
さらに、本籍地の変更があり、別の市町村に本籍地が移った場合には、それぞれの市町村役場で戸籍の取得の手続を行う必要があります。
このため、新しい戸籍の記載内容から、その前の本籍地を確認し、その前の本籍地の市町村役場において、古い戸籍を取得する手続を行う必要も出てきます。
何度も本籍地が変更されている場合は、いくつもの市町村役場で戸籍を取得する手続を行わなければなりません。
被相続人の戸籍以外でどのような戸籍を取得する必要があるかは、相続関係によって違ってきます。
被相続人の子だけが相続人になるときは、被相続人の出生から死亡までの戸籍に加えて、被相続人の子の現在の戸籍を取得すれば良いこととなります。
他方、被相続人に子がおらず、被相続人の父母も存命ではないため、被相続人の兄弟姉妹が相続人になるときは、被相続人の父母の最後の戸籍、被相続人の兄弟姉妹の現在の戸籍も取得する必要があります。
3 相続人の調査の依頼
以上のとおり、相続人の調査の際には、複数の市町村役場で戸籍を取得する必要がある可能性があります。
相続関係によっては、何十枚もの戸籍を取得しなければならない可能性もあります。
また、戸籍の内容を精査し、漏れがないかどうかをチェックすることも必要になってきます。
これらを確実かつスムーズに行いたい場合は、相続人の調査を専門家に依頼することもできます。
相続を依頼する場合の専門家の選び方
以下では,相続を依頼する場合の専門家の選び方について、ポイントをまとめたいと思います。
1 相続に関係する知識を網羅的に把握していること
相続に関係する専門家は,弁護士,税理士,司法書士等,様々です。
たとえば,相続について,相続人間の意見調整が必要になった場合には,弁護士が関与する必要があります。
相続税の申告が必要になった場合には,税理士が関与する必要があります。
相続した不動産の登記が必要になった場合には,司法書士が関与することが多いでしょう。
ここで注意しなければならないのは,多くの場合,それぞれの専門家は,別の専門家の仕事について,詳しい知識をもっているわけではないということです。
このため,相続では,特定の専門家の知識に基づいて処理を行ったものの,その処理が,他の専門家から見ると,適切ではないということが起きやすいのです。
たとえば,弁護士が相続人の意見をまとめて遺産分割協議書を作成したものの,不動産の登記を行うことができない,税理士が申告のために書類を作成したものの,その書類では,相続人間の意見が適切に調整されていないといったことも起こり得ます。
このように,相続では,他の専門家の知識も含めて,網羅的に把握している必要があることとなります。
2 相続についての詳細かつ最新の知識をもっていること
相続では,事案のわずかな違いによって,どのような処理をすべきかが大きく変わってきます。
たとえば,不動産の名義変更の仕方1つを取っても,遺言に「相続させる」と記載されているか,「遺贈する」と記載されているか,遺言執行者が指定されているかどうか等によって,登記申請の仕方が変わってきます。
このような,事案のわずかな違いを踏まえて,どのような処理をすべきかについて,詳細な知識をもっておく必要があります。
また,相続では,様々な分野で,取り扱いの変更が起きています。
たとえば,相続法の改正により,配偶者居住権の制度が新設されたり,遺留分の計算方法が変更されたりしたことは,記憶に新しいです。
他にも,農地法上の許可が必要な範囲が変更される等,様々な場面で,取り扱いの変更がなされています。
このような取り扱いの変更に対応するためには,様々な分野についての最新の知識をもっておく必要があります。
3 相続を依頼する場合の専門家の選び方
以上から,相続の場面では,網羅的,詳細かつ最新の知識をもち,これを活用することができる専門家に依頼するべきでしょう。
そのためには,相続問題に特化した専門家へのご相談をお勧めします。
連絡がとれない相続人がいる場合,どのように対処することになりますか?
1 連絡をとることができない相続人がいる場合の問題点
相続の手続は,相続人全員の合意に基づいて行う必要があります。
銀行,証券会社等で相続の手続を行う場合も,基本的には,相続人全員の実印の押印と,相続人全員の印鑑証明書の提出を求められます。
このため,連絡をとることができない相続人がいると,基本的には,相続の手続を進めることができないこととなってしまいます。
それでは,どうしても連絡をとることができない相続人がいる場合は,どのようにすれば手続を進めることができる状態を作ることができるのでしょうか?
2 相続人の住所の調査
このような場合には,相続人の住所の調査を試みることとなります。
相続人の現在戸籍を取得済みである場合は,これを手がかりに,相続人の住民票や戸籍の附票を取得することが考えられます。
住民票については,相続人の住所がある市区町村役場が,戸籍の附票については,相続人の本籍がある市区町村役場が取り扱っています。
もっとも,住民票も戸籍の附票も,取得することができるのは,本人,同一世帯の人等,一定の人に限られています。
このため,相続のために必要があると説明しても,市区町村役場でこれらの書類を取得することができないという問題が発生する可能性があります。
住民票や戸籍の附票は,弁護士等が職務を行うのに必要がある場合には,職務上請求により取得することができます。
どうしてもこれらの書類を取得できない場合には,弁護士等に依頼して,相続人の住所の調査を行うことも考えられます。
住民票や戸籍の附票により相続人の住所が特定できた場合には,これらの住所宛に手紙を送付する等し,連絡を試みることが考えられます。
3 相続人が住民票上の住所にいない場合
現実には,相続人が市区町村役場で住所変更の手続を行っていないため,住民票上の住所で生活していないことがあります。
このような場合には,住所上の住所に手紙を送ったとしても,「あて所に尋ねあたりありません」として,手紙が返送されてしまいます。
このように,相続人が所在不明である場合には,どうすれば良いのでしょうか?
たとえ,相続人が所在不明であったとしても,相続人が現実に存在する以上は,その相続人が合意しなければ,相続の手続を進めることはできません。
そこで,相続人が所在不明である場合には,相続人の代わりに法的な当事者となる,不在者財産管理人を選任し,手続を進めることを試みることとなります。
不在者財産管理人は,家庭裁判所で申立を行い,選任してもらいます。
なお,不在者財産管理人の選任にあたり,家庭裁判所は,警察に対し,捜索願いが出され,所在の調査が行われた記録があるかどうか,職業安定所に対し,登録がなされているかどうか等の調査を行います。
これらの調査の結果,相続人の所在が判明し,相続人に連絡をとることができるようになることもあります。
こうした家庭裁判所の調査を経ても,相続人の所在が判明しない場合には,正式に不在者財産管理人が選任され,相続の手続を進めることができるようになります。
相続財産(不動産)の調査方法
1 固定資産税の納税通知書を確認する
亡くなった人名義の不動産については,固定資産税の納税通知書で確認することができます。
固定資産税の納税通知書は,毎年4月から5月にかけて,各市町村役場から,不動産の名義人に対して送付されます。
固定資産税の納税通知書は,亡くなった人が不動産を所有していた市町村ごとに送付されます。
このため,固定資産税の納税通知書が届くと,その市町村に亡くなった人が所有していた不動産が存在することが分かります。
固定資産税の納税通知書には,固定資産課税明細書という名前のページが存在します。
固定資産課税明細書のページには,亡くなった人が所有していた不動産が,一覧表で記載されています。
したがって,固定資産課税明細のページを確認すると,亡くなった人名義の不動産を,網羅的に確認することができることとなります。
2 固定資産税の納税通知書を紛失してしまった場合
固定資産税の納税通知書を紛失してしまった場合には,市町村役場において,固定資産課税台帳と呼ばれる書類を取得することにより,亡くなった人名義の不動産の一覧を取得することができます。
固定資産課税台帳は,名寄帳と呼ばれることもあります。
なお,不動産には,固定資産税が非課税となっているものが存在します。
公衆用道路やため池等がこれに当たります。
先に述べた固定資産税の納税通知書には,非課税の不動産は記載されていないことがあります。
他方,固定資産課税台帳や名寄帳には,非課税の不動産も記載されています。
このため,非課税の不動産も漏らすことなく確認する目的で,固定資産課税台帳(名寄帳)を取得することもあります。
3 登記事項証明書を確認する
以上の方法で亡くなった人名義の不動産を確認できましたら,それぞれの不動産の登記事項証明書を取得します。
固定資産税の納税通知書や固定資産課税台帳,名寄帳には,その年の1月1日時点の所有不動産が記載されています。
このため,その年の1月1日以降,相続の時点までに,不動産の権利移転があると,不動産の所有者が変わっていることがあります。
このように,相続の時点における各不動産の名義人を確認するために,各不動産の登記事項証明書を取得する必要があります。